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カティンの森


カティンの森_a0032559_12391052.jpg20年ぶりぐらいにアンジェイ・ワイダ監督の映画を見た。
現代の商業主義的な作品に影響され、大分と見やすくなったと評されていたけれど、
それでも充分に重かった。
映画館の冷房が効きすぎていたせいもあるけど、心から冷えた。






監督 アンジェイ・ワイダ
出演 マヤ・オスタシャースカ/アルトゥール・ジミエウスキー/マヤ・コモロフスカ

誰もが真実を知っているのに口にできず、支配者が押しつけた嘘がまかり通る。祖国への愛と民族の誇りからそんな偽善に抵抗する者もいるが、強大な権力の前ではなすすべもない。第二次大戦でドイツとソ連によって分割・占領され、戦後はソ連の支配下に置かれたポーランド人の苦難、それは民衆の先頭に立つべきインテリ階級の不在が生んだ技術や知識の空白が原因だ。映画は1940年ソ連軍が行ったカティンの森虐殺事件を中心に、戦争に運命を翻弄された人々の苦悩を描く。

アンナはソ連軍の捕虜となった夫・アンジェイに脱走を勧めるが、軍人の誓いを捨てないアンジェイは同僚と共に移送されていく。アンジェイはその行程を詳細に手帳にメモする。一方アンナはクラクフに住むアンジェイの両親のもとに身を寄せるが、アンジェイの父もドイツ軍に拘束され死亡する。

紅白のポーランド国旗はソ連軍によって白い部分を破り捨てて赤軍旗にされる。国家の象徴を踏みにじられても指をくわえて見守るだけ。それでも大将の妻だけは、ドイツ占領時代はカティンの森事件でソ連を非難する声明文を読むことを強要されても拒否し、戦後はカティンの森事件はドイツの仕業とするソ連のプロパンガンダ映画に反対の声を上げるなど、一貫して軍人の妻としての矜持を持ち続ける。その後、元家政婦が市長夫人になっているなど、ポーランドにおける深刻な指導者不足が語られるが、これこそソ連がポーランドを衛星国化するための施策だったのだろう。ハンガリーやチェコで起きた民主化運動が、ポーランドでは80年代まで待たなければならなかったが、その事実が人材を育てるのにはいかに時間がかかるかを物語っている。

やがてアンジェイらは森の奥に掘られた深い穴の前に立たされ、1人ずつ銃弾を後頭部に撃ち込まれて処刑される。彼ら1万数千人におよぶ将校は、ほとんどが職業軍人というより技術者や知識人。本来社会のリーダーとなるべき層がブルドーザーによって土中深く埋められ、ポーランドは従順な大衆だけの国になってしまう。このラストシーンが、戦後長らくソ連に依存せざるを得なかったポーランドの歴史を連想させる。

by kounoproclimb | 2010-06-30 12:38
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